何となく気分がすぐれない日々です、今日も丸子さんはふさぎこんでいます。朝から着替えはしているものの・・・と言うよりパジャマの上からズボンをはいていますが・・・。それと、最近はセーターを二枚重ねて着こんでいます。まだ、そこまで寒くは無いと思うけど・・・?という投げかけにはブルブルっと身震いをして寒さを表現します。
そんな丸子さん、今日も朝からいつも通りお散歩。水筒持ってコップもって、乳母車を押しながらの出陣です。最近日の光が強いので帽子は欠かせません。ちょっと眼深に帽子をかぶってしゅっぱーつ!
施設を出て、中央通り沿いに右に折れます。施設の角の交差点を右に折れて路地に入ります。そのまま100メートル程歩いて農業用水にかかる橋を渡って左折。道なりに沿って歩くと、施設真横のスキップタウンという複合商業施設へのアクセス入り口が見えてきます。歩く事数十歩。スキップタウン内に入って、その商業施設中央付近にある小さな児童公園のベンチで小休止。持参したお茶を水筒からコップに移し替えて、ゆっくりとお茶を楽しみ、飲み終えたら岐路に着きます。
公園を出てすぐが、先ほどの中央道路脇の歩道です。歩道を西進、歩く事数十歩。これで施設玄関までのお散歩は終了。お散歩は休憩時間を入れて15分から20分程度のものですが、それでも一歩も外に出ないよりは出る方がいい。そう繰り返し言いながら、今まで継続しています。
さて、お散歩から帰った丸子さん、胸のあたりにいつも痛みを訴えます。素人判断で「不定愁訴だ!」と真剣に取り合わなかったのですが、先日病院を受診した結果、心肥大があるようで、胸痛はそのあたりからの症状かもしれないと聞き、職員一同、素人判断はダメね!という結論に達したのでした。
高齢になると背骨が丸く変形してきます。膝の関節に不具合が出て痛みが伴う。下肢筋力が低下してすり足歩行になる。等、歩行には通常の健康な若者には、何の変哲もない段差すら大きな障害となって転倒の危険性が増加します。一旦、転倒するような事故を起こしてしまうと骨折の可能性が増すばかりか、それがきっかけとなって寝たきり生活となる事もあります。丸子さん達がお散歩するコースは、子供なら追いかけっこする神社の境内に相当する程度の広さを散歩します。とても短く、楽なお散歩のように思いますが、これでも丸子さんにとっては一大決心が居る行事なんでしょうね!
何でもいいけど、いつまでも自分の足で歩いて外の空気を吸えるような状態でいてもらいたいですね。
うちの丸子さん、朝から事務所に私を訪ねて相談にやってきた。認知症に関係なく人間関係の悩み事は誰にでも起こりえる問題です。今日の丸子さんの訴えはご自身の買い集めた『着物』について悩んでいるようである。要するに、親族の面会のたびに丸子さんは残してきた自宅や着物、掛け軸などの古物(その物の価値は不明)などの処分をせまられているようですが、今実際に処分しなければいけない物か否かは分からないです。ここ数日、同様の悩みを繰り返し訴えていました。私自身、この問題に関しては今日までに3~4回の相談を受けており、その都度、同じアドバイスを実施してきましたが、一旦不安感情にスイッチが入ってしまうと、なかなかリセット出来ないのが認知症の特徴のようです。
今回の悩みは、丸子さんのご両親が買い与えてくれた着物や掛け軸などの高額商品の処分に対して心配しているご本人が居ると言うところですが、私のアドバイスとしては、着物や掛け軸を姪や甥などの親族に生前贈与するもしないも決定するのはご本人であること。そして、身辺をあまりに軽くすることも余生を送る中で一抹の寂しさがあることもお伝えしました。ご自身が決定することに私たちは何も言う事はありませんが、ご本人は世話をかけている意識から親族(ご本人には結婚歴が無く直系のお子さんがみえない)への気兼ねもあるのです。親族から直接的に着物をくれ!と要望はされていないものの、処分を考えた方が良いのでは?との問いに際し、自分が大事にしている着物を抱え込んでしまうことによる親族との関係悪化を懸念されているのです。
認知症高齢者がグループホームに入所する事は、旅館に世話になるような気軽な感覚とは違う、複雑な環境が新たに発生することを介護職員は認識しなければなりません。一軒の家を開け放ち、持てる財産の全てを他者にゆだねてこなければいけないわけですから、自分自身の将来にも、残してきた財産にも心配で仕方ない事が良く理解できます。認知症高齢者の心のケアは、身体を清潔に保つことと、しっかりとした医療の支援、栄養管理などと同様に重要であり、奥が深いものがあるのです。
自分自身が施設に入所する事態となった場合、やはり家屋敷、家族、自分のコレクション(大切にしてきたもの)などの行く末をかんがえると不安になる事とおもいます。私の場合は、それこそ何の役にも立たないブリキのおもちゃや古時計の数々の行方を心配し、その物の価値を同じように感じない私の姪が雑に扱う姿にオロオロすることと想像します。自分にとって価値があるものも、他人にとって同様に価値があるかどうかは分かりません。高齢者の場合は、この点が大きな問題になりがちですね。「私の父が、私のために与えてくれた物・・・・」その物の価値は本にとってはプライスレスですが、他人にとってゴミにしかならない物も多くあります。この価値観の違いが認知症高齢者を悩ましてしまいます。
太陽の家の職員さんには、このような利用者の心を察してケアできるスキルを身につけていただき、本当に心地よく余生をすごせるような支援を行ってもらいたいです。
丸子さんにとっての今日はとても気分の悪い一日となった。
いつも通り、朝のお散歩から帰って、土曜日にいつもデイサービスを利用される三子さんと一緒にデイルームで午前中を過ごすこととなった。昼食も間近となりデイの利用者の大半が入浴を済ませてデイルームの席に着いた頃、そのハプニングは起こった。三子さんとは背中合わせに着席した丸子さん、一緒のテーブルのデイ利用者の方から声をかけられた。
「あんた!なんで、ここに居るの?」もちろん、それ程キツイ口調ではなかったように思う。
(私はその時の様子を直に見ていなくて同じフロアーの事務エリアのデスクで聞いていた。)しかし、この利用者は軟調傾向にある方で、普段より声の大きな利用者である。声のトーンとスピードによっては、非常に嫌味にも解釈できる言葉である。丸子さんは、その悪い方に解釈したようである。飲んでいた湯のみをテーブルに叩き付けるように置いて、自分の気持ちを表現した。
その丸子さんの対応を見て、もう一人の利用者は逆に怒りが爆発。テーブルの上に置いてあるアクリルの名札立てを持って力強く叩きつけ、職員に丸子さんの行動に対して訴えた。
「この人が、こんな事をするんや!!!」と二回ほどテーブルに叩きつけ大きな音を立てる。
周りの職員がさっそく二人の間に割って入り、喧嘩を食い止めたが、腹の虫の収まらない丸子さん。同様に湯呑をテーブルに叩きつけて相手の暴言に対して怒りを表現した。
これが一連の流れで、丸子さんも、デイの利用者さんも二人ともとても些細なことが原因で口論となったのですが、私は傍に居た職員の介入の仕方に反省をしてもらいたいと思っている。現場には二人の職員が着いておりながら何の手だても打てずにただ茫然と立ちすくんでいたのである。その様子を察した看護婦と相談員の両名が介入して二人の口論を諫めたわけだが、介護職員としては身体介護が主たる業務であるが、これらの人間関係の調整も介護職員の業務の一つである。
先を読み、現状を放置することでお互いの感情に傷を付けてしまった事は、介護する人間としては半人前である。適切な介入を行い、この施設内の人間関係を円滑に取り持つ事が役目であると考えるのである。
それと、認知症を患っていても感情は生きている証拠が、今回の事件である。認知症だから何をやっても分からない!ではなく、感情の部分は確実に残存し悲しみも憎しみも理解できるのです。私達高齢者介護、特に認知症高齢者を専門に接する者としては、この部分をしっかりと認識しないと、一人前には程遠い介護者と言われても仕方は無いです。
久しぶりの丸子さんの登場です。ここ一週間というもの私のもう一つの事業の関係で、当施設から遠ざかっていたのですが、最近の丸子さん。相変わらず体調にお変わりなく元気に過ごして見えます。今朝がたも朝のお散歩に出かけられ、ものの30分程度、屋外のお散歩を楽しまれました。午後からは認定更新手続きの署名をおねがいして、少しだけですがお話をしました。
一週間の施設不在は、帰ってからの仕事の量が増えて、その分走り回ることとなって大変です。私は外でも朝から晩まで(深夜まで)仕事をして、帰るなり施設で仕事をして・・・・と、ひとりブツクサブツクサ呟くのでした。
こんな忙しい毎日の中、デイサービス利用者のご帰宅時間がきて、送迎バスを送り出した後に、グループホームの職員が相談に訪れた。
「施設長、少しご相談してもいいですか・・・・?」と職員さん。内心、ドキッとして(職員さんの相談と言えば、退職の話が多いので、その話題が脳裏を横切ります)まぁ、どきどきしながら、『良いですよ!』と言いながら話を聞く。
職員さんの話の内容は、丸子さんのことであった。最近、ダイニングに置いてある冷蔵庫から他者の食品を無断で食べてしまうらしいのです。丸子さんには、共有の冷蔵である事、他者の食品も一緒に保管している事などをしっかりと説明したにもかかわらず、自分の居室に持ち出して食べてしまうらしい。この職員さんは、真面目な子ですので、このような認知症特有の障碍に対する支援方法に迷っているようでした。
このようなケースは、認知症グループホームではよく発生する問題です。食品を食べるならまだしも、体に有害な洗剤や漂白剤までも飲んでしまうケースもあるぐらいですから、丸子さんの場合は、まだ序の口です。しかし、この職員さんの悩みに、ある程度のアドバイスを与えなければいけないので、私なりに考えた結果を話しました。
『まず、相手は認知症であることから、私達の持っている常識や観念を押しつけても定着しない事を理解したうえで、どのような支援が出来るかを考えなければいけないと思います。恐らく冷蔵庫をロックしない限り、いくら口頭で注意したところで、職員さんの考えは伝わりません。それよりも、食べてはいけないもの、例えば座薬や目薬、アイスノンなどの食品以外の物の管理にも注意が必要であること。冷蔵庫に余分な物を保管しない事。その上で、時として利用者のご家族が差し入れしたフルーツやらヨーグルト類の食品を食べてしまった場合には、その利用者のご家族に事情を説明し理解を得る事や最悪の場合は、丸子さんのお小遣いから同党の品を買って弁償する事。お互いのご家族に状況をしっかりと説明しながら、相互理解を構築するよう支援する。ことが私たちにできる支援であるのではないでしょうか?と話をした。
私は、冷蔵庫に鍵をかけ冷蔵庫を開けさせない環境や職員が血眼になって、他者の物を盗み食いする行為を見張る必要性は感じません。そんな味気ない環境にうちの丸子さんを置きたくないのです。体調管理に悪影響がある場合は、ある程度厳しい管理は必要になってくるかもしれませんが、そうでない限りは他人の物とか、自分の物とかに目くじらを立てるのではなく、もっと大きく見守ってあげる事が必要ではないかと考えます。